平沢進 14thアルバム『BEACON』感想

2021年7月28日、待望の平沢進ソロ14thアルバム『BEACON』が発売されました!

初夏発売と某所で予告されて以来、すっかり長びいていた初夏をやっと抜け出しましたね!

 

この文章を読まれている方でBEACONを未聴の方はまずいらっしゃらないと思いますが、もし単語検索等から迷い込んでいらっしゃった方がおりましたら、とりあえず

 

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ということで、待ちに待った新譜を拝聴した感想を簡潔に述べていきます。

 

新譜は覚悟していた以上に全体的にとてつもなくトリッキーで、不思議の国のアリス症候群のまっただ中のような、自分の現在地の次元の座標をも失する感覚に陥りました。

ソロ過去作はコンセプトアルバム的な構造も多く、映画一本を見たような充足感がありますが、今作は連ドラのDVD‐BOXを一気見したくらいの密度の濃さでした。

とにかく変化球の化け物のような構成で、あっちこっちから琴線を刺激されて、どうにもこうにも落ち着かないです。

前作『ホログラムを登る男』平沢進の集大成という印象の名盤でしたが、今作では平沢進をもって平沢進を制すというか…なんとなくリスナーの脳内に確立されていた「平沢進らしさ」をご本人が喜々として崩し、自由気ままに逸脱したという印象でした。

初めて聴いたとき、「え!?」と声に出して吃驚してしまう場面が何度あったか……。

まさしく「制限からの解放」を地で行かれている有言実行の権化たるお方だなぁと。

 

まるで音楽のウインチェスター邸に迷い込んだようです。 

 

奇抜な面白さという点では『点呼する惑星』系統のようにも思えないことはないですが、聖馬蹄形惑星の大詐欺師のようなド直球極まる風刺もAstro-Ho!帰還のようにこの世の構造をストレートに説明するような曲もなく(追記:訂正します。論理的同人の認知的別世界聖馬蹄形惑星の大詐欺師の正統なる直系ですね。大詐欺師が過去の経緯を綴って論理的同人がド直球に現在を描いていますね)、灯や日に照らされ花や火やキミが咲く、混沌としていながらもその視野は明るい、ご本人が仰っていたように回=回以降の希望への展望が描写されていることが、アルバムのそこかしこから伝わってきます。

はじめまして、平沢さんの新しい連結の抽斗たち。

 

ところで、CDの曲順でなく、作曲された順に聴くとあら不思議、作者が生み出した筋道がある程度トレースできるおかげか、音の世界観が整理されて全体的な流れの明度が高くなるような気がします。

作曲された順は、平沢さんのTwitterや月締メ・フォルマントでの曲解説などを参考にするとおそらくこうなるのではないかと思います(括弧内は開発コード)

 

1.消えるTOPIA(Ghost Venue)

2.燃える花の隊列(Unknown Garden)

3.Landing(Legato Landing)

4.TIMELINEの終わり(Code Rain)

5.転倒する男(Unknown Scale)

6.COLD SONG(Dewar Flask)

7.記憶のBEACON(BKK)

8.論理的同人の認知的別世界(M_08_GUI

9.幽霊列車(Ghost Train)

10.BEACON(BEACON)

11.ZCONITE(※開発コードなし)

 

個人的にはわりと座りが良いと感じる流れなのですが、やはり完成品の曲順でないと、次々と繰り出される、「そうですかそうきましたか」のアソートパックのような、ひたすらに展開の読めないびっくり箱体験はできなかっただろうなぁとも思います。

でも消えるTOPIAからBEACONへの旅もなかなか清涼感あるワンダーランドで良いですよ!

大団円後のZCONITEは、例えるならゴジラKing of the Monstersで伊福部昭のテーマをバックに閉じるエンドロールに感動しきった後に現れる、最後のおまけ映像のような不穏なポジション、みたいな。


……しょっぱなから反則的な味わい方を語ってしまいました。

 

平沢さんご自身も語られていた通り、起き抜けに降り注ぐフレーズやヴォーカルメロディから先に形成する手法を試みられただけあって、声という声がたっぷり張り巡らされており、バカコーラスもバックだけではなく前面に出て活躍されている場面が多くて嬉しいです。

ブックレットのノド(折り目)部分から何故か桜餅(あるいは杏仁豆腐)のような甘い香りがするのでついつい嗅いでしまうのですが、なんせお写真がたっぷり載っているもので、顔を近づけても大丈夫なポイントを考慮しないと大変です……。

鮮やかな沖縄の海と晴天の色に彩られ、時折ざりざりした暗い岩の表面が不穏げに仄見える、そんな中に颯爽と自撮り棒を手に聳え立つ、顔面完全防備の白髪の男(LOVE靴が嬉しいサービス)

頭部は宇宙服のごとき重装備、でもスニーカーというアンバランスさが良いです。

この要素たちを見事にまとめ上げた中井さんのデザインセンスは本当にすごいなぁ。

そしてとにかく佇まいが……うつくしい……美の神はここにおられるぞー!

 

それでは以下曲ごとに好き好き大好きポイントを述べていきます。

 

 

①BEACON
 
24曼荼羅1日目のアンコールで演奏され、親の声よりよく聴きまくった曲。
華やかに幕開けを飾る軽快にして濃厚なタイトルチューン。
思い出補正のせいでしょっぱなからレルレさんのドラムロスに襲われてしまいました。
(インストを除き)最後に生み出された曲とあって、このアルバムの総決算感が半端ないです。
それをドタマに持ってくるんだからスゴイ。さすがのっけから容赦ない。
トリッキーな展開をするメンツが多い中、比較的平沢進的正統派曲という感じがします。
ライブでの諸々の制限がなくなったら、思いっきり縦乗りしてサビでは「名もなき子」で合いの手を入れたいですねー。
「大声は闇を見せ 揶揄で滅びる愛」が色々と深く腑に落ちる世情です。
 
②論理的同人の認知的別世界
 
聖馬蹄形惑星の大詐欺師と双璧を成すパワータイトルですなぁ。
ドアタマで火事場のサリーを彷彿としました。 
もうこれはプログレですね。展開の起伏がとんでもなくて何が起こってるのかわからんですね。
煽るような奪取奪取大奪取のコーラスに、ファルセットと巻き舌が同時に堪能できてしまうボーナスポイント、挿入される語り(誰ですかこのお嬢沢さんメロウなメロディーと、リスナーの耳を翻弄しながらも喜ぶツボをきっちり押さえまくった遊園地のような曲です。どったんばったんのアトラクションだらけです。
ギターが終始愉快な動きをしていて楽しい。
最後の2小節間の8分のベースの刻みが、ちょっと中期P-MODELっぽさを感じて好きだなぁ。
月締メで先行公開されていた仮タイトルが、口にしたときの響き的にとても好きだったので、ちょこっと変更されちゃったのだけが残念。
 
③消えるTOPIA
 
ダイジェストを聴いた段階ではCOLD SONGがこのアルバムの白眉だと思っていたのに、とんでもねぇ伏兵がいたもんだぜ……!
一番真っ先に生まれ落ちた長男(長女)にして、いきなり要素詰め込みすぎの巨人と化してる。
ナーシサス次元から来た人が心の故郷であり(ちなみにこのブログのタイトルはナーシサス次元から来た人のGoogleスペイン語訳です)、OPUS亜呼吸ユリアで育てられた私の情緒をメッタ刺しにしてくる曲。
歌詞的に実質ENOLA2。これはもう続ENOLAです。帰ってきたENOLAです。
そしてマインドフルネス等での基本概念「今ここ」をふと意識する「たった今」ゾーンがとんでもなく癖になります。
「今はたった今」「犬はたった今」に聞こえてしまって、「え?わんこが洗われ降っちゃう?」とうっかり心躍ってしまうことをここに懺悔致します。
特にサビあたりのリズムに核P-MODEL的なエレクトロニカというか、個人的にはminus(-)でゲストに出演された時の会場の空気感や照明の演出を想起させられます。
ちょっとだけEDMを孕んだプログレですね。
作詞者も収録アルバムも同じなので当たり前っちゃー当たり前かもですが、記憶のBEACONと世界観が近接に繋がっているように感じられるのですよね……。
歌詞中に「消える」「TOPIA」も登場しないので、色々と想いの馳せ甲斐があります。
現状一番好きな曲です(例によって一番は日替わりで変わってしまうものなのだ)
 
④転倒する男
 
プログレですね(もうただプログレって言いたいだけやろモードに突入している)
「鉄塔からジュラ紀の花降る宵の星」……もうね、こんな情景綴れるのは世界広しといえど平沢進ただひとりしかおらんですよ……って描写力にひれ伏した途端に
「わっはー」
って突然IQ2の語彙を繰り出してくるのはもうほんと卑怯なんですよ。
冒頭からぷいぷい言ってる電子音がかわいらしいです。
twhzしながら弾いてたギターフレーズってイントロのところなんだろうか。Aメロ裏のギュゥゥンのあたりなんだろうか。
一応オマエタチはリアルタイムで出産に立ち会ったことになるのですね(笑)
完全に私事なのですが、昔飼っていた猫の名前が「みお」だったもので、「見よ」が再生環境によっては「みお」に聞こえて、天上から降り注ぐラッパ、もといフレンチホルンの二重奏の聖なる雰囲気と相まって涙腺が緩んでしまいます。隣接次元で元気にしてるかなぁ。
 
⑤燃える花の隊列
 
冒頭がなんだかとってもススム・インティライミ
あっ実際のご本人やその音楽になぞらえたわけではなく、イメージの中にある象徴としてのインティライミ感です。すみません。完全なるただのイメージなのにそう感じてしまって大変申し訳ないのですが、誰だこのインティライミ、というのが第一印象でした。いやだって想像してみてくださいよ、あの唯一無二の歌声と死せる名の暗きに火を咲いて歌う歌詞と平沢節1000%のディストーションギターの部分を抜いたらかなりインティライミな空気感じゃないですか。え?そうでもない?
絶対平沢さんの世界観では登場しなさそうと思い込んでいたピースでアースでフォレストな音だったので、ものすごくびっくりしました。平沢さんの楽曲史上最も夏フェスっぽくないですか?え?そうでもない?
フジロックの木道亭のような空間で、ハンドクラップしながら楽しみたい。
椅子に座ってモズライトを弾き語りをする平沢さんで見てみたいです。ヘッドセットでなく、ブームタイプのマイクスタンドで。
(勝手にイメージしていた)「平沢さんらしくなさ」が随所に散りばめられているのに、同時に見事な「平沢さんらしさ」でまとめ上げられている不思議なバランスの曲だと思いました。
やはりライブでは生ドラムで味わいたい曲だなぁ。
どの部分がサビなのかいまいちよくわかりません。すべてのフレーズが主役ですね。
アンチ・ビストロンのラストなんかもそうですが、異なる歌メロが重なる演出が大好物です。
ノイズ処理のためか、あるいはサブリミナルの呪いか、私の難聴耳には「ウェルカム ウェルカム」「ベーコン ベーコン」に聞こえてしまっ……。
色々好き勝手言っておりますが、この文字量でお察しいただける通り、語り出したら止まらなくなるくらい大好きな曲であります。
「発火する花が咲く圧巻の夜」それはどれほど見事な大花輪だったのだろう。
「キミのあるべくあるそれ」の言葉でまっすぐに肯定してくれる平沢さんが好きです。
 
⑥LANDING
 
プログレですね(まだ言ってる)
バックでウィスパーしてる「アッアッアッ…アアー」は、ヘッドホンで聴くと絶命必至です。
サビの、ノスタルジーを刺激される、合唱コンクールの課題曲に登場していてもおかしくない切ないメロディに絡まるグロッケン(※追記:こちらグロッケンではなくシロフォンの音であるとご指摘をいただきました)が愛くるしいです。
愛くるしタイムの前に野焼きの白煙のように立ち昇るのようなファルセットが、アクセントであると同時に次曲への助走になっていてなかなかニクいなぁと。
燃える花の隊列Landingは作曲順でも同じ流れなので、なんとなく勝手にコンビ感を感じています。作曲順だとこの後がTIMELINEの終わりなので、空の色が変わりゆく夕方に駆け出した丘の先に、見たこともない絢爛の祭列が広がっているような心象風景が浮かびます。
 
⑦COLD SONG
 
もうこれダイジェストの時点でダダ泣きですよ。
なんなら関係者各位感想発表時に湯本さんから大ヒントが投下された段階でもう泣いていましたよ。
ファルセット100%生搾りストレートというだけで地に伏して泣いているわけですが、ギターが突入してくるところで天に向かって思わず祈りを捧げてしまいます。
この曲を歌う平沢さんが聴けたというだけで今生を生きてきた甲斐があったってものです。
未研磨の電子の水晶がハープのアルペジオで乱反射するイメージと、YouTubeで公開されている中井さんの映像が見事に一致して、既に泣いているのに泣きそうになってしまいます。
バカコーラスではなくVoices of the Apocalypseの音源を使用されているということで、大人数だからこその孤独を歌い上げる悲愴な響きがより際立っているように感じました。
凍える氷牢光学現実と簡易的に認識しております。
目覚めて牢の外に踏み出したそのひとを待つのが、ウェルカムと迎えてくれる燃える花の隊列だったら良いなぁと空想してしまいます。 
 
⑧幽霊列車
 
イントロのぶらりお座敷列車旅情の雰囲気にすんごいびっくりしました。
平沢さんは、たとえ歌詞に頼らずとも音で見事に情景を描くなぁと感服します。
暗澹たるストーリーに葬られた残骸、亡き者たちを乗せる列車、ということでこれは実質ハルディン・ホテル2ですね。
 「行く列車の塵は砂丘に文字を描く “百年彼方の空より見守る”と」でも想起されますが、平沢さんの描く列車はよく空を走っているなぁという印象です。「空(カラ)列車」「から」「そら」をかけているのでしょうし(あ、でも列車ではあくまで線路を行きますね)
といったところで「空ピーカン」とまたナチュラルにIQ2ワードをぶっ込んでくるから油断ならない(※追記:ピーカンは俗語だと思い込んでおりましたが、元は映画業界用語であるとご指摘をいただきました/語源は諸説あるようです)
ハルディン・ホテルではキミをさがして駆けていますが、幽霊列車でも隠れたキミを追っているんだなぁ。
なんとなくレトロな曲調が、セピアの過去から走り続けている幽霊列車の歴史を物語っているようです。
 
⑨TIMELINEの終わり
 
 24曼荼羅2日目、万感のフィナーレを飾った曲。
ライブの情景が眦に蘇り、聴き終えた時の感無量感がとてつもない。
このアルバムの中で最も壮大で、祝祭のような雰囲気を纏う曲。
なのにこの曲で大団円を迎えさせてくれないのがなんとも小憎たらしい(笑)
トリッキーさが控えめの比較的ストレートな構成なので、素直に穏やかにオリエントな慕情に身を委ねていたいのですが、4小節のギターソロを弾くご本人が「近づいてきたかと思うと、クルッと踵を返して去ってゆく女王様タイプのソロ」と説明してしまったがために、二重展望に次ぐ王平沢ソングになってしまった。
Bパート(恐れた塔の~)の平沢さんのウィスパー寄りの声を後ろから支えるストリングスが妙に切なくて好きです。
オーロラに続く、お誕生日に聴きたい曲シリーズです。
そういえば、雨が降ってるのはBEACON幽霊列車TIMELINEの終わりの3曲ですね。
降水確率約30%か……。
 
⑩ZCONITE
 
想像力が貧相なので、地下迷宮の神殿で黒魔術発動中……という短絡なイメージが真っ先に湧いてしまいます。
ZCONITEという言葉の意味は会然TREK2K20▲03のメモリアルパッケージカードのムービーの中で詳しく語られているので、ああ、あのメラメラしてる方々の内に響く音はこんな不穏な感じなのかなぁと思いを馳せておりますが、見れてない人はtwhzでZCONITE及びZCONについてさっくり語られた回のみの情報しか公開されていないので、早くダウンロードコンテンツとして再販されることを願ってやみません。
雰囲気がブラックメタルのアルバムの導入部のインスト感があるので、ちょっとブラストビートでこの先を展開してほしくなります。
ゲンロンカフェで斎藤先生とのトークに出ていた、「平沢さんの音楽には陽を浴びた藁だけでなく、それを持ち上げた下に蠢いている気持ち悪い虫もきちんと描かれている」といった趣旨の話を思い出します。他の10曲が藁、この曲は虫にあたるわけですが、だからこそ平沢さんの音楽はけっして綺麗事を綴るだけでは終わらないという安心感があります。
 
⑪記憶のBEACON
 
作曲順で聴くとCOLD SONGの直後に冒頭の言葉が来るので、色々と反則です。
「もう大丈夫ですよ」は平沢さんに言ってほしい言葉脳内ランキングTOP3には常に必ず鎮座しているフレーズです。誰に言われるよりも絶大な安堵感があります……。
Aメロからオクターブハモリ、Bメロではシングルヴォーカルに3度のハモリが重なってきて私を連続で悶絶に誘います。『SWITCHED-ON LOTUS』版のMermaid Songのサビのように、オクターブでハモってくるのはどちゃくそツボなのであります……。
ドライブBGMとしても最高の疾走感。横の歩道でランニングしてる人がいるとなお完璧にマッチする情景の完成です。
千年女優の千代子さんのように、ひたむきに走って走って走り続けた先にぱっと視界が拓けるイメージ。思えばこのアルバムは1曲目の初っ端から「疾風と化せ」とフルスロットでしたね。
前途へ促してくれる花道のような力強い18人のバカコーラス隊がかっこいいです。
なんとなくミュージカルっぽい雰囲気もありますよね。
分類コード「箸休め」に分類されるとご本人に定義されておりますが…休めるかぁ!!!!
 
 

 
歌詞に頻出する「目覚め」やその類型の言葉は、スピリチュアル方面としてもコンピスラシー方面としても何気ない日常風景としても、どうとでも幅広く解釈可能になってしまう単語ですが、視点を変えてみる、思い込みから脱却してみる、という日々の小さな場面の中でも「目覚め」の瞬間って溢れていると思います。
やはり本作で、個人的にひしひしと胸の内に染み込んでくるテーマはまさに「制限からの解放」
命がけで崖を登っていたアヴァターが、本当は地べたを這っていただけだったように。
「平沢さんらしい/らしくない」という思い込みに捕らわれて、某所では検証を怠りまんまと釣られ情けない醜態を晒してしまったように(今でも胃がキリキリする屈辱の思い出)
勝手に苦手意識を抱いて避けていた人が、話してみたら実はめちゃくちゃ波長が合う人だったり。
まずいと長年思い込んでいた食べ物が、実はとってもおいしかったり。
日常の中のほんの些細なことでさえ、全ての物事が天と地がさかさまになる視野の転換や小さなアイディンティティクライシスの積み重ねたりえると、私は認識しています。
 
平沢さんの音楽は(Twitterも)、ある波長が共鳴する万人に普遍の作品として抽象化され広義化されているがために、己の固定化した思考を如実に映し出す鏡だなと常々感じています。
新譜を通じて私の内面から思いきり顕著に引きずり出され、例えば音楽の展開に対して、また平沢さんに対して、あるいは己に対して勝手に無意識に定めてしまっていた、「まぁさすがにこの範疇からは逸脱することはないだろう」と舐めプのムーブをかましていた幻影の枷をまざまざと眼前に突き付けられ、思い込みがどんどん覆りまくりました。
痛快でした。
あ、思考のデトックスってこういうことなのかも、と。
 
人は己の経験または知識の範囲内でしか物事を解釈できません。
知らないことは発想できない。
知り得ないことに対して正しい判断は下せない。
世界の歪みと認知の歪みを区別できない、だから常に正気を焚いて行かなければならない。自覚する正気すら完全には信用せず、常に己に問いかけ続けるべきなのだろう。
 
平沢さんが戦う対象は遥か以前から一貫して全く変わっていないけれど。
呪詛は払われ彼岸に消え去り、「もう大丈夫ですよ」と告げてくれる。
過剰に不安がらなくて良いんだよと、あの手この手で伝えようとしてくれているようで嬉しいです。
(※あくまで私が作品からそう受け止めたということであり、作者の意図を勝手に想像して代弁する主旨では全くありません)
 
BEACONはあまりにも平沢さんらしくないがゆえにとても平沢さんらしい、歩く意外性たる平沢さんそのものであるアルバム、という感想です。
今の平沢さんそのものを、好きなだけ聴くことができて本当に幸せだなぁと。
製作着手から1年以上を経て、この音を無事にオマエタチの元に届けてくれたことに、心から感謝です。
本当にありがとうございます。
 
 
早くライブで全身に浴びたいですね!
 
 
聴けば聴くほど語りたいことが無限に湧いて出てきてしまうし、上述した感想も時間が経てば、あらやだ全然的外れだったわ恥ずかしい!と顔から火を吹くのは目に見えておりますが、キリがないのでひとまずここで切り上げることにします。 
なんとも拙い簡潔な感想でしたが、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
 
 
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2021.07.22 ようこそBEACON with モルカー