『達人の山』の歌詞が美しすぎてやばい

 

 

 

こんにちは、ともぞうです。

おひさしぶりです。

 

突然ですが、私は常々平沢進氏のアルバム『賢者のプロペラ』は文学芸術であると思っております。

歌詞やGhost Notes、Phantom Notes等をはじめとして氏の紡ぐ文章には独特の格調高さを纏った世界観が雄大に広がっておりますが、中でも群を抜いて秀逸と思うのが、昨今では聴く頭痛薬としても名高くなってしまったアルバム『賢者のプロペラ』です。

情景描写としては歴代頂点ではないでしょうか(個人の感想です)

コンセプトや制作時期の関係もあるのでしょうが、氏の歌詞に点在する比喩隠喩に潜む風刺批判的な毒素が薄く、とにかく描かれる情景が気高く儚く優しく美しいのです。

サウンドにおける新たな挑戦、とか、歌詞に込められたメッセージとは、とか、考察とかがどうでも良くなってしまうくらい圧倒的な美しさがただ静謐と在るのです。

 

個人的な最優秀情景描写大賞は『賢者のプロペラ2』なのですが…ってこれも好き曲と同じで日替わりで入れ替わってしまうのですけども、今回はさらっと『達人の山』を例として語らせて下さい。

なんで『達人の山』をセレクトかといいますと、昨日久々に聴いて、その言葉のあまりの美しさに情緒が限界を迎えたからという短絡的な理由です。

 

意味考察はしません(できません。汗)

 

 

『達人の山』の歌詞は以下です。

 

花は蒔かれた何万も キミの行く道の上
無き者のように目を閉じて呼びかけた遥かから
愛のような日が怪力で来る

 

街をまたいで吹きあがる何万の電光は
石くれに住む黄金の沈黙の歌い声
愛のような日を怪力で招く

 

川沿いに立ち断念の日を焼いて暖を取れ
遥か遠くで達人のキミを呼ぶ琴の音に
愛のような日が怪力で来る

 

 

どうですかこの孤高にして崇高な世界観…(憧憬)

2番では『夜』という単語を一切使わずして、人々が生活を営む街の夜景であることを浮かび上がらせてきます。すごい。

 

共通項として、1行目で『情景』、2行目で『音』が描かれています。

 

1番は『道』、2番は『街』、三番は『川』

そして『呼びかけた』『歌い声』『琴の音』

 

ただ音は音でも、「遥かから『呼びかけた』」「沈黙の『歌い声』」「キミを呼ぶ『琴の音』」なので、おそらく特定対象である『キミ』以外には届かないような淡い音(もはや思念の域)という印象です。

 

視覚に訴える客観情景→聴覚あるいは心情に訴える主観情景→未来情景

 

という構造が三度繰り返されます。

 

 

冒頭の

 

花は蒔かれた何万も キミの行く道の上

 

 

①桜などの花びらが道に舞い散る春の日の風景

②花が咲き乱れる広大な野原の風景

③結婚式

④葬列

 

等々、様々な解釈が可能なのですが、③や④の設定と仮定して3番の「断念の日」を迎えると激エモで激しんどくなりませんか…

私は④を踏まえてもしも「無き者」「亡き者」ダブルミーニングだったりしたらしんどすぎて蹲ってしまう派です…(何)

②だと『ロタティオン(LOTUS-2)』の情景とリンクしてさらにしんどくなってしまいますよね…

 

3番の「暖を取れ」でそれが肌寒い日であることがわかりますので、1番の「花」を造花などでなく季節の生花と解釈するなら、この曲は肌寒い春の日の一日の描写かもしれませんし、春から秋冬に季節が遷移したのかもしれませんし、もしかしたら年単位の長い時間を経ているのかもしれません。

何が言いたいかというと、各1行目に時間の流れが配置されることにより、歌詞世界が進行する物語として成立しているわけです。

 

この歌詞が達人の三人称で書かれているとしたら、つまり語り手=達人であるなら、「キミ」に対する純粋な思慕の念が読み取れます。

しかし無人称表現として語り手≠達人であるなら、あら不思議、途端に仄暗い情念がサビから滲み出てきてしまいますね(笑)

 

そしてクライマックス。美しい情景と繊細な心情が織り成した無垢な世界に、突如として「怪力」という強い単語が参入してくる、このカタルシス

硝子細工のような日常が容赦なく覆されるような、圧倒的な無常に襲われませんか。

 

たった9行です。

おそらく錬金術とかユング心理学とかそういった深い暗喩も潜んでいるのではとは思いますが、そういった考察やヴォーカルの後ろで踊るホルンが好きとかギターソロが胸に迫るとかの音関連も一切合切さっぱり無視して、ただ9行の文字情報を表面だけざっくり追っただけでこの密度。

 

ね、とてつもない文学芸術でしょう?

 

芸術文学、ではないです、あくまでも。

文字で奏でられる芸術。

 

メロディありきの歌の詞でありながら、文字のみで味わう詩としても最高峰ですよね、本当に。

『賢者のプロペラ』インストゥルメンタル曲を除いたほぼ全曲、平沢さんの繊細にして圧倒的な感性と情景描写力に打ちのめされるアルバムです。 

 

何より、全編にわたってサウンドがとても温かい。

魂が音のおくるみでふわりと包まれるような気持ちになります。

 

 

賢プロはいいぞ。

 

 

そしていつの間にか公式の在庫が復活していたね!やったね! 

 

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